技術/解説/し/た/ところ/で

はなしたところで(落花有意/Talked)」は、NTT ICCにて開催された企画展のためのデータビジュアライズ映像作品。

都内に暮らす複数のカップルの会話履歴を解析し、やりとりする人間の「ちがい」を3つの視点で表現しています。

本記事では、その「3つの視点」の解説を中心に、作品の紹介を行います。

(映像に関するインタビュー記事は、こちら

作品概要

前述の通り、この作品はNTT ICCにて開催されている「特別展 OPEN STUDIO リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC 「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」のための作品です。

こちらの企画展では<“伝わらなさ”という視点を用いて「伝える」という行為自体を考える>事がテーマとして与えられ、各作家が作品を展示しています。

グループ展として他の作品ではコミュニケーションの根源的な要素や未来の姿を見せる中、「現在」という視点をもって取り組んだ作品であり、「今を生きる人々が日常的におこなうやりとりのデータ」を題材に制作を行いました。

現在の私たちにとって最も馴染み深いコミュニケーションツールであるメッセージング・アプリケーション(LINEやfacebook messangerなど)の会話ログを収集、解析。そこから見えてくる話者の違いを見せるデータビジュアライズ映像作品となっています。

日常的なコミュニケーションは、やりとりをする者同士の関係性によって様々な形をとりますが、今回は「恋人たち」の会話にフォーカスしてデータの収集を行いました。

古代の神話から中世の文学、現代の映画やアニメーションまで、ヒトの創作物では「男と女」のコミュニケーションが繰り返し題材となっています。

これは「両者の間で生じる“伝わらなさ”への興味が我々の中に普遍的に存在するからでは」と仮定し、現在の日本で生きる「恋人たち」のデータから、人間の抱える普遍的な“伝わらなさ”の可視化を試みています。

-

第1部 リズム

会話ログには、主に以下の3つの要素が含まれます。
・送信者
・送信時間
・送信内容

この第1部では、ログの送信時間と送信内容の文字数から、出会いから別れまでの会話のやり取りをタイムラプス的に表現しています。

どちらが、どれくらいの量の言葉を、どんな早さで相手に伝えているか。二人の会話の「リズム」が垣間見えてきます。

第2部 無意識

第2部では、二人が送り合う言葉の裏に潜む「無意識のちがい」を表現しています。

この「無意識」に関しては、前身となるプロジェクト「意識の辞書(2017-)」があります。

「意識の辞書」は、個人の書いたテキストを解析し、単語の分散表現(単語を、数値の集まりとしてコンピュータに扱える形で表現すること)を計算する技術を用いて「似た文脈で使う言葉が隣り合わせになるように」単語が並んだ辞書をつくるというプロジェクトです。

例えば、夏目漱石では「恋愛」の近くに「罪悪」や「意味」、「矛盾」と言った言葉が並びます。なんとなく漱石らしい、漱石の意識の中身を読んでいるようなこの辞書が、「意識の辞書」です。

ここでは、やりとりを行なっている二人のそれぞれの「辞書」をつくりました。

そこから会話中に登場する単語を両側のディスプレイで引いていくことで、それぞれの言葉の裏に潜む無意識の違いを表現しています。

第3部 言葉

第3部では、それぞれの会話から同じモダリティをもつやりとりを抜き出し、それが時系列で並べられていきます。

「モダリティ」とは、話している内容に対する話し手の判断や感じ方を表す言語表現のこと。

「例えば「明日は晴れてほしい」という文章があった場合、「ほしい」と欲求を表す部分がモダリティです。

このモダリティには「きっと〜だろう」という対事モダリティと「たのしいね」の「ね」にあたる聞き手に対する対人モダリティがあるとされ、会話中の対事モダリティを抽出すると、例えば以下のような文章が時系列で並びます。

上記図中では「もし〜だったら」を表すような仮定を含む表現を抽出しています。とにかく「会う」ための言葉が、次第にお互いの内面にふれるような言葉となり、最後には別れを思わせるような言葉へと変化していく様が読み取れるでしょう。

作品中でも「仮定」「欲求」「問いかけ」に関する対事モダリティの抽出を行う事で、二人が送り合う言葉とその裏に潜む「ちがい」をみせています。

言葉によるコミュニケーションを3つの視点から解析する事で、「ちがい」を見せるこの作品。

日々のやりとりで生じる“伝わらなさ”について考える際に、新しい視点を与えるようなものになれば幸いです。

ディレクション,データ解析,プログラミング:浦川通(Qosmo/Dentsu Lab Tokyo)

出演:薫子金定和沙

映像:稲垣謙一

音楽:澤井妙治

アート・ディレクション:岡村尚美(Dentsu Lab Tokyo)

ロゴ・デザイン:畑ユリエ

企画監修(一部・二部):渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)

協力:suzzken